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「うん、やっぱりかっこいいですね」
スタジオ裏、衣装に着替えてヘアメイクとメイクを終えた俺たちを見たプロデューサーが微笑んでそう言った。今回の衣装は新曲に合わせて落ち着いた色合いのもので統一されている。
今日のスケジュールをプロデューサーに尋ねると、今日は一部だけ歌う予定を全てカットして芸人のトークにし、新曲に関する情報はまだ秘密であるという体でトークを進めて欲しいと言われた。
それを聞いたとき自然と拳に力が入った。自分のせいでジュピターがアピールできる場を失ってしまうのは、やっぱり相当悔しい。胸が悔しさと怒りでかっかと熱いのに足先は冷たかった。北斗と翔太、プロデューサーへの申し訳なさと自身への腹立たしさに顔をあげられずにいると、翔太が屈んで俺の顔を覗き込んだ。
「冬馬くん」
「翔太」
「冬馬くんが下向いてるうちに僕がいいとこ全部持ってっちゃうよ?」
そう言ってふふんと挑発的に笑う翔太は、衣装のせいかいつもよりずっと大人っぽく見えて、不意を突かれた俺は正直少し戸惑った。衣装をくるりと翻し決めたような、なんだか澄ましたような顔を作ってみせる翔太の頭を北斗がぽんぽんと軽く叩いて笑う。
「翔太、ちょっとは俺にも見せ場譲ってくれよ」
「えー北斗くん、じゃあ自分で頑張ってよ」
「それじゃあ無理に奪っちゃおうかな」
カメラの前でもないというのに北斗は雑誌やテレビで美しいとか綺麗だとか言われまくりの微笑をこんなところで作ってみせると俺をちらりと見た。
これは――完全に挑発されている。それが分かった途端、俺の口と身体は勝手に動いた。布地の多い衣装がばさりと派手で大袈裟な音をたてる。
「俺を差し置いて目立とうとしてんじゃねぇ! 今日は歌はねぇけどそれ以外で思う存分アピールしてやるからな!」
「…まぁ、空回りしないように気をつけてくださいね」
騒がしい俺たちを一歩離れて見ていたプロデューサーがやや気が抜けたような笑みを浮かべる。そのとき、スタジオ入りしてくださいとの声がかかった。移動しようとしたとき、プロデューサーと北斗、同時に一瞬目が合った。何を言わんとしているのかは分かる。だけどそれに頷くとかはせず、ただ視線で以て答えた。
ほんの短い時間だったけれど気持ちは完全に切り替えられた。やっぱり自分のことを情けないとか思いそうだったけれど、そんなこと考えている暇はない。歌が歌えないのは今はどうしようもない。今できる最善を尽くすだけだ。
大丈夫、大丈夫だ、今日は歌が歌えないから代わりのことで何ができるだろうか、大丈夫――自分に言い聞かせて足を動かす。そこに黒井のオッサンの影とクラスメイトの影が確かに絡みついてまだ消えていないのを、意識の奥の奥底に押しやりながら。
