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「もうあまり時間はないんだからね」
「分かってます、必ず決めてみせます」
レコーディングルームにディレクターの尖った声がスピーカー越しに入り込んできた。俺は迷いなく返事をする。結局病院にも行かなかったから、窓からプロデューサーが不安そうに俺を見つめているのが分かった。北斗も翔太も俺を見ている。翔太は今まであまり見たことのないような無表情で、北斗は――少しだけ笑っている。いいぜ、見てろよ。そんな思いを込めて俺は視線を返して目の前を向く。
もしここで歌えなかったら――なんてことはもう頭からなかった。ぐずぐず泣いてなんてもういられない。俺だったらまた別の道を探す。自分だけじゃない。北斗の過去にだって確かに触れたあの時間のことを思う。あの熱い手から俺は多くのことに気づくことができたはずだ。このことを聞いたら北斗はどう思うだろう。
今まで俺が置いてきたものたち、通り過ぎて行ったものたち、そして俺に残ったもののことを考える。今の俺には何があるのか。
『何でもできるしどこへだって行けるよ』
北斗の言うとおりだ。そうだ、大丈夫さ――言い聞かせるようではなく、心の底からそう思える。
一度大きく深呼吸して声を出すと一番聞き慣れた声がした。最初は静かに、だけど力強さを感じさせるような歌い方で、という指示だ。歌声に芯を通らせるために、俺は大きく息を吸い込んだ。
《了》
