灯る未来は何色

「誕生日おめでとう、ガロ」
 ライターで一本一本ロウソクへ火を灯す。暗い部屋の中で、ケーキ、そしてクレイの微笑みが浮かんだ。
 テーブルの向かい側でクレイが笑って祝ってくれるから、今までに比べたらずっと静かな誕生日だけど、思ったよりもさみしくない。
 街で評判のお店で買ってくれたというバターケーキのクリームが、ロウソクの温かさで少し溶け始めている。
 クレイが箱を持ってきてくれたときからずっとワクワクしていたけれど、キレイな飾り物みたいにクリームが絞られているのを見ると、ちょっぴりもったいない気持ちになった。
「ありがとう、クレイ」
 思い切り息を吸って火を吹き消す。火が次々と消えていって真っ暗になると、クレイの顔も見えなくなった。
 すぐに電気は点けられて、いつも通りの景色が戻ってくる。
「なぁ、プレート半分こしようぜ」
「おや。今日はガロの誕生日なんだ。このケーキを一人で食べたっていいんだよ」
「ううん」
 『Happy Birthday』と書かれたチョコプレートを、ちょうど半分になるように気をつけながら割る。『Happy』のほうをクレイに渡すと、クレイはちょっと驚いたみたいだった。
「いいのかい?」
「うん! ケーキのお礼!」
 命の恩人であるクレイが、俺がこうして、生きて誕生日を迎えられたことを祝ってくれている。
 それが嬉しくて、本当は丸かじりしたかったけど我慢した。おいしいケーキを、二人で一緒に食べたくて。
「ありがとう。では、私も少し頂こうかな」
「うん!」
 皿に半分こしたプレートを乗せると、クレイはナイフを手に取って慎重にケーキを切っていく。
 クレイの手つきを見ていると、さっきロウソクへ火を灯したときの同じ緊張感が思い出された。
「俺、誕生日のときだけは、…火がちょっとだけ平気になる」
「…何?」
 ピタリとクレイの手が止まる。
 あんな事故があったというのに、少し物騒なことを言っただろうか。でも本心だ。
「だって、俺を祝ってくれるから! それに、俺がひと息で消してやるからなっ」
「……そうか、それは」
 見事、キレイに切ったケーキを俺の皿によそい、クレイはもう一度笑った。
「頼もしい限りだな」
 その言葉を聞いて、俺は大人になったとき、今の俺より何倍も身体の大きいクレイに頼られる未来を想像する。
 どんな火だって消してみせる――誕生日のケーキに刺すロウソク以外は。クレイの歳の数だけケーキに刺せば、部屋を暗くしたって電気を点けたときと変わらないくらい明るくなるに違いない。
 クレイが繋げてくれた未来がどうなるのか楽しみで、甘くておいしくてほっぺが落ちそうなケーキを食べながら、俺は早く、早く大人になりたい。そう思わずにはいられなかったんだ。

《了》