自らが築き上げてきたつもりの街並みは大半が瓦礫と化しており、そこをバーニッシュとも人間とも区別のできなくなった人々が少しずつ整備を進めている。
崩壊したプロメポリスを行き交う人々を、クレイはじっと見ているに留まっている。
片腕を失くしてしまい、残ったそれで誰へ手を差し伸べることもできない。罵られるか、石を投げられるかと思いきや、誰も彼もが自分を当たり前のように避けていき、おのおのの作業へ集中していた。
それどころではないのだ。あれだけの事態を引き起こしたにもかかわらず、空気のような足取りで外を歩けた。しかし身軽さなんてものは微塵もない。まるで気分は幽霊だ。この世にこうして欠けた実体はあるのに、それは誰の目にも見えないのだ。
しかし、心臓はまだ動いている。
復興に励む人々の中に交じって、ガロは道に積もり積もった土砂をシャベルで掻き分けている。
行き場を失ったクレイは、近くの瓦礫に腰かけて、ただその様子を眺めていた。
パルナッソス計画が破綻した日からそうだった。
行き場などどこにもない存在は、あれだけ目障りだった男のもとへ足しげく通い、背中の筋肉が汗を流して蠢くのを見て、ときどき幼いころの彼の面影と重ねて、その残像はやがてまぶたのどこかへ消える。
「俺は火消しだけじゃねぇ、穴掘りも宇宙一なんだ、ぜっ」
果たしてガロは自分に話しかけているのだろうか。クレイは考えあぐねて、結局は沈黙を選んだ。
しかし、ガロにはそれが不満だったらしく、ショベルを立てるとクレイを振り返り、眉間に皺を寄せた不服そうな顔で唇を尖らせる。ガロの常に爛々とした瞳はしっかりと、クレイの輪郭を捉えた。
「なぁ、クレイ。俺が独り言しか言ってねぇように見えるから何か答えろよ」
「……」
シャベルを立てて、額へ流れ続ける汗を腕で拭ってガロは溜め息をついた。クレイはこうして返事をしないまま自分を見ているのか、どこを見ているのかわからない。ずっとそうだ。一度は肩を揺さぶったものの、変化などありやしない。
だからガロは、他の人々と同じようにプロメポリスが少しでも良くなるように努めるのみだ。
そうして、幾ばくか時間が経ったとき。
背を向けるガロに、クレイはいつもの質問を投げかけた。
「私はいつ死刑になるんだ?」
今度はガロが無視をする番だ。
かすかに縋るような、うわずる声音にガロは答えない。それは彼の知る範疇ではない。何度もされているのに、クレイも懲りないものだ。少し溜め息をつきつつ、ガロは手を休めない。
祈る気持ちで、クレイは再度問う。
「私はいつ裁かれる」
「……」
人々が周囲でざわめいているのに、普段は鼓膜を破る勢いの声で物を言うガロの沈黙はひたすら重く、クレイにのしかかる。
「私は、」
「今はそれどころじゃねぇんだよ」
ようやくガロは答えたが、質問に対するものではない。平常通りの調子で告げられる事実は、虚ろなクレイの胸を氷で刺すように冷たい。
少しずつ下がっていく陽を睨みながら、ガロは決意している。
絶対にクレイを死なせはしない。周囲の誰が何と言おうと、彼は自分の未来を今まで繋げてきた人間だ。
それは例え、自分が罵られたり石を投げられても曲げられない意志だ。
ただ、今は人々がひとつになってこの街を再生しなければならないから。
「アンタのことは、そのうちわかるだろう」
そのうちとは、果たしていつまでを指しているのか。自分はいつまで生きていられるのか。クレイの意思とは反して動き続ける心臓を、終わりのないカウントダウンが支配する。
とうに気づいているのに、見ないふりをしているとてつもない恐ろしさに胸が震え、クレイは俯いた。失くした腕を持て余した袖の影が、ゆらゆらと力なく揺れている。
《了》