シェア・ザ・xxx

「やっぱ、無理ありますね」
 うん、と頷くこともできず、自分自身に引いている翼を見上げる。柔和な顔立ちの中から覗く精悍さがこの違和感を倍増させている気がした。
「いや、まぁー、翼は可愛いんだけど、うーん、やっぱイケメンだからな」
「無理してフォローしなくていいですよ…」
 力なく笑った翼がカーディガンの裾を握る。もともとオーバーサイズに見えるデザインのものを、かなり大きいサイズで用意してもらったはずだけれど、やはりレディースだ。翼の体格には所々がややきつく、本来のデザインとは違うものに見えてしまう。
 一歩離れて、何が良くないのかを真面目に分析する。タッパはもう仕方がないとして、ヘアメイクとかを抜きした状態だとしても、今の翼はじつに似つかわしくなく、正直…滑稽にも見えてしまう。コーナーのコンセプトは「本気の変装」だ。ネタとしてならウケるだろうけど、そっちへ安易に「走った」と思われるのは俺も翼も少し心外だった。
「はぁ、どうしてオレなんだろう」
 出演が決まってから何度目か分からない溜め息をつく。番組内のくじ引きで変装担当が翼に決まった、それだけだった。次のテーマが「女装」なだけで。
 フリルのふんだんにあしらわれたロングスカートは、まだ男性の体型を隠すには向いている。ただ上半身は身動きがきつそうだ。でも今の翼は、ふんわりした服を着ておけばそれっぽく見える、なんて簡単に思っていた俺たちの偏見を見事に打ち砕く姿をしていた。
「オレ、このまま動くと破いちゃいそうで怖いです」
「でもあの人、あげてもいいって言ってたろ」
「頂いても困りますよ!」
 収録終了直後、番組で共演している女性タレントさんへ相談したところ、『いろいろ研究できるでしょう』と後日自分のクローゼットから大きい紙袋いっぱいの服を持ってきてくれた。『最後にいつ着たか覚えてないし、捨ててもフリーマーケットで売ってもいい』と笑いながら軽く言われたけれど、返されなくて色々な意味で不安にならないか逆にこちらが心配した。
 でももしかしたら、ていよく断捨離できたと思われているかもしれない。もらい受けたのはそのタレントさんの趣味からは少し外れたような、フリルがたくさんあしらわれたような、上品そうな雰囲気のものばかりだった。まぁ、この際断捨離だろうが構わない。俺たちには似合わないことはよく分かったから。
「男の体型に沿って作られたものじゃないから、似合わなくて当然なんだよな」
「えぇ、ごもっともです…正直腕とウエストがかなりきついです」
「袖にゆとりのある服の方がいいんだろう」
「大きいサイズのワンピースとかどうでしょう。それならウエストも隠せますし」
 男二人で真剣に何を話し合っているのか冷静になろうとする意識を無視して、仕事が決まってから心なしかずっと元気のない翼を、どうにか本人が腹落ちするところまでにはしてあげたかった。
「肩回りが突っ張ってると、無理やり着ました感が出るな」
 近づいて触ってみると、肩あたりが特に服と身体の間にわずかな空間もないくらいパツパツだ。それなのにフリルのついたブラウスなんて着るからチグハグ感が余計に増すのだろう。翼の言う通りワンピースはいいかもしれない。果たしてサイズが適うかは不明だけれど。
 そのままカーディガンを掴んでめくる。本人の言う通り、ウエストはきつそうだけれどわざわざブラウスをスカートの中にしまっているからじゃないのか、これ。
「ブラウス出してもいいんじゃねぇの?」
「こういうふわふわしたスカートと組み合わせるときはウエストを絞る方がいいかもしれません。ファッション雑誌もくださったんです」
 置いてあった紙袋から取り出して見せる。何枚か真新しい付箋が貼ってあって、その真面目さに頬がゆるみそうになる。ファッションや演技の仕事だと特にそうだけれど、翼はなかなか研究気質だ。例え女性の着る服でもそれが変わらないことがおかしくも、それが彼のいいところなのだと妙に再認識した。
 どれどれ、と誌面を除く。確かに受け取った服に近い系統のものが多く掲載されていた。似合わない原因が分かったなら、この中から改善できそうな組み合わせを選ぶだけでもだいぶ違いそうだ。
「このジャケットなんかいいんじゃないか」
「デニムってあまり伸縮性ないから腕パツパツになりませんかね」
「もともと大きめに見えるようなやつなら平気だと思うけど、どうかな」
 譲り受けた服の山から、雑誌に載っている服とデザインの近いものを引っ張り出して翼にあててみる。あまりふんわりしているとかえって筋肉のメリハリが強調されるから、カジュアルな方がいいかもしれない。フワフワした服は可愛くて、そっちの方が翼の人柄に合っているけれど。
 やっぱりこっちの方がいいって、と言いかけてふと上を見ると、翼の顔が思ったより近くにあって面食らう。
「うわっ」
「あ、あぁごめん、近寄りすぎた」
「いいえ…」
 慌てて離れると、翼が少しうつむいてしまった。セットしていない、そのままの髪から覗く耳はやや赤い。ちょっと困ったり照れたりしたときに押し黙るのは、二人きりのときだけ。

 あ、…ちょっと。
 さっきまで大真面目にどの服が似合うか話し合っていたのに、翼の、自分だけが見られる表情を得られた瞬間に、頭の中は容易く切り替わる。
「翼ぁ」
「な、なんですか」
 テーブルに服を置いて、さっきみたいに翼へ近寄る。明らかに意図が違うことに気づいた翼はそっぽを向いて雑誌に目を通す。そんなのフリだ、すぐ分かる。視線がアニメみたいに泳いでいるのが可愛い。
 雑誌を身体と身体に挟んで翼に抱き着いた。そのまま腕の力を強くすると、熱い耳を頬に感じてくすぐったい。
「て、輝さん、急になんですか」
「別に。翼は可愛いと思って」
 研究熱心なところも、真剣な眼差しも、俺より少し大きな身体も。間近で感じられているんだ、少しくらいこの気持ちを再認識したっていいじゃないか。
 俺たちの身体の隙間から雑誌を取り出すと、翼もおずおずと手を回してきた。横で小さく溜め息をつかれる。
「今そう思ったんですね…」
「あぁ」
「よく分からないですが、ありがとうございます」
 大きくてやわらかな、俺のとても好きな手が頬へ滑り包まれる。触れられて初めて、自分の顔もきっと翼と同じくらい熱くなっていることに気づいた。少しだけ垂れた、翼の瞳に捉えれた、それだけで動けなくなる。
「おかしい輝さん」
 からかい半分の甘く響く声で囁かれて、耳に掛けた髪を指先で撫でられる。目を閉じたから真似てすぐ、唇が合わさった。
…このあとは想像できる。さて、なんて言いながら俺たちは離れて、さっきみたいに雑誌とにらめっこしながら、なんとか番組の主旨に合うような服を探すのだ。これは束の間の、恋人同士の行いであって、俺たちは仕事の話をしていたのだ。
 だけど、――どうしてか、不思議なくらい離れがたい。翼の好きなところを再認識したからか、それともさっきの囁き声が思った以上に身体の芯に入り込んで、ちょっとだけ痺れるような感じだったからか。でも理由は何にせよ多分、思っているのは俺の方だけだ。翼の集中力を侮ってはいけないし、仕事の邪魔は俺もしたくはなかった。
 うん、仕方がない。内に生まれてしまった熱がせめてバレませんように。
「…さて」
 予想通り翼は離れて、雑誌を置くと服を探し始めた。赤い耳はすっかり元通りなのがちょっとだけさみしい。体温の名残から余計に強く感じる寒々しさと、それを破って出てこようとする熱を努めて押さえて、俺も手伝おうとする。
 恋に浮かれる、やや集中の欠けた意識でどれ、と手を伸ばそうとすると、その手を掴まれた。心臓が跳ね上がり翼を見ると、ちょっと困ったような、それとも怒りを押し殺しているような、なんとも微妙な表情でいる。
「輝さん、隠さないでください」
「え、何が」
「まだドキドキしてるの、顔見ただけで分かります」
 掴まれた手をそのまま引き寄せて、翼は空いている手で俺の胸元に触れる。あ、と思った瞬間には自分の心拍数がいやでも分かってしまい、今度は俺がうつむく番だった。邪魔したくなかったのに、こんな一瞬でバレるなんてありか?
「あ、すまん、そんなつもりじゃ」
 取り繕うこともできなくて、慌てて手を振りほどこうとすると余計に強く掴まれた。腰あたりを抱かれると、薄いスカートの生地越しに色々と伝わりそうで喉が引きつる。翼に触れて正直に嬉しいと思ってしまうのと、内に沸いたどうしようもない熱がバレた気まずさでもうどうすればいいか分からなかった。ただ腕あたりにしがみついて、さっきよりもほんの少しだけ上がった翼の体温を感じる。
「輝さん、オレ、怒っているんじゃないです」
「うぅ」
「もっとしたいならそう言ってほしいな、と思って」
 手を離されても、成す術もなくもたれかかる。しっかり抱きしめられると、遠慮した意味とはいったい…という気持ちすら湧かず、言う通り素直に身をゆだねた。
 やっぱり、触れられたいタイミングで恋人にそうされるのは嬉しい。瞬時にこうやって気づかれてしまうくらいには。
「…ベッドに行きますか?」
 頷いて答えれば、かすかに笑った鼻の抜ける音と共に、額にも口づけられた。

 やば、と翼らしからぬ言葉が聞こえたので、ベッドに身を沈めたまま見上げると、気まずく笑う彼の顔と目が合った。
「着替えてからがよかったですね」
「あぁ…」
 ブラウスの襟元を結ぶリボンが垂れ下がってきて顎辺りを掠める。指でつまんで引っ張れば脱げるなんてことはなく、小さなボタンがきっちり留められていてもどかしい。
 シーツを整えるような容易な仕草で俺の服を脱がしていた翼もやや苦しいと思ったのか、片手で俺のシャツをはだけさせ、もう片方の手でブラウスのボタンを外していくがなかなかうまく進まない。
「ほら、俺がやるよ」
「あっ」
 両腕を伸ばしてプチプチと外していく。やわらかな布の隙間から素肌が覗いて少し驚いた。
「じかに着てたのか?」
「インナー着ると本当に入らなそうで…ギリギリだったんですよ!」
「そうだったんだ」
「うわっ」
 手のひらで胸あたりをべたっと触ると翼の身体が跳ねた。やっぱ、しっかりとした身体だな。あれだけ食べているのに緩まないのは、本人の努力の賜物だろう。脱がなければ決して露わにならない、しなやかで引き締まった肉体に見とれる。でも、脱ぎかけの服にあしらわれたギャザーやフリルが、薄いベールのようにも見えて少しチグハグなのは拭えないままだった。
「ひっ、ぁ」
 いきなり触ったお返しと言わんばかりに、翼が首筋あたりに唇を落としてきた。そのまま食むように動かされ、喉が震える。舌が血管を辿るようにのぼってきて、耳辺りへ口づけられた。胸同士がぶつかって、しっとりとしたやわらかな肌の下に隠れた、たくましい肉体の質感を妙に強く感じた。
「んぁ」
「輝さん…」
 少し吊り上がった眉の下にある瞳の強さに射抜かれる。最初は手探りで無知そのものだったセックスにも慣れて、お互いの気持ちの良いところも分かって、恋人同士の行為をようやく身につけたというのに――どうしてこうも今、乱されてしまうのか。
 彼らしくない、身体にも合っていない可愛い服を纏っているからこそ、内にあるたくましさ、しなやかさが匂いたち強調される。目の前にあるのは、どうしようもなく好きな男の身体だ。
「今日、どうしました? すごく、ドキドキしています」
 俺がさっきしたように胸元を手のひらで触られる。そのとき、先の部分を掠めたせいで、口には出せないもどかしさが広がって痺れる。早く、早く。急いた気持ちで見つめれば、眉尻を少しゆるめて翼が微笑んだ。
 口を寄せ、そこから赤い舌が覗く。濡れた舌先が肌に触れた瞬間、身体の中をぐるぐると回る熱が溜まっていって息苦しい。舌が動いて、胸の先に吸いつかれたとき、たまらず目を閉じた。
「あ、はぁ」
 力は決して強くなく、撫でられる感じなのがくすぐったいし、気持ち良くてたまらない。あまり力を入れないように、ただ縋りたくて翼の髪を掴むけれど、どれだけ加減できているか。手のひらで優しく脇腹をさすられる。手つきこそは慣れたもので、俺が気持ちいいと伝えたことのある場所へ優しくしてくれるけれど、翼が俺と同じくらい熱いのが嬉しかった。
 どうにか籠った熱を少しでも逃したくて身体を動かすと、硬い、彼の熱が脚の間に感じて思わず腰を浮かした。
「つ、翼」
「え? あ…、あはは」
 視線の先にあるのは、フリルがふんだんに付いた、清らかな雰囲気の可愛いロングスカート。その下に隠された欲望を想像してしまい、急にどうしていいか分からず、馬鹿みたいに動揺する。
「輝さん」
 俺のよりは少し高い、優しくやわらかな声で呼ばれる。確かに翼の声なのに、目の前に見えるのはスカートだから、もう何がなんだかクラクラしてきた。着替えればよかった、と翼は言っていたけれどその通りだ。なんだかすごく、良くないことをしているような自罰的な気分になり顔を逸らす。だけど、それは悪いことではない、と説きたいのか、翼は下半身をやわく押しつける。形さえも、もう少しで分かりそうだ。
「オレも、ちょっと苦しいです」
 照れて笑うその顔はとても可愛い、いつもの翼のままだった。その事実に、混乱しきった頭が少しだけ安心する。相変わらずロングスカートとのコントラストに目眩がするけれど。
「下、脱いじゃいますね」
「あ、ん! そ、そうしてくれ」
 耳の外側を指先でなぞられる。その不意打ちに過剰に反応してしまいながらも、俺も自分のズボンに手をかけた。気が急いて下着ごと脱ぐと、既にたちきった性器が腹にくっつきそうで、ただ熱の吐き出し場所を求めていた。
 翼もスカートに手をかける。性急で、言ってしまえば少し雑な脱ぎ方がどこまでもスカートと似つかわしくなく、また、そこから覗くのは男性物のシンプルなボクサーパンツだから、また頭がどうにかなりそうだった。
 既に膨らみでぴっちり張りついているそれに指をかけ、脱いでいく様を見ていると、ふわふわの服に包まれていた翼がいつも通りの姿になって、なんだか奇妙な安心に見舞われる。
「あ、翼…」
「どうしました?」
「そ、の、…いれねぇの?」
 お互いの性器同士を握りこんだ翼の手に触れて縋る。ここまで気分が高まっているから、あとはいれて、二人のリズムに合わせて動くだけ、なのに。どんな風に思われてもいい、腰を少しだけ揺らしてねだる。せっかく、ここまで来たのに。一番熱い欲望を待ちわびて、喉がかすかに鳴るようだった。
「ダメですよ、ちゃんと慣らすには時間かけないとでしょう」
「で、でも、俺だいじょうぶ…」
「いいえ、無理しちゃいけません」
「う…うん、ごめん」
「でも次は…」
 たくさん、しましょう。
 耳たぶ近くに舌を這わせ、そんなことをとびきりの甘さを含んだ声でそう囁くのだ。次、また、次がある――その喜びを改めてうっとりと噛みしめていると、翼の腰がゆっくりと動き始めた。既に先走りで濡れきった性器同士が滑って、内腿が震えた。脚の間にある翼の身体を挟み込むと、翼がそれに応えて、キスをしてくれる。
「ん、ふぅっう」
 口を開いて翼の舌を迎え、首にしがみつき自分からも舌を絡ませる。こうやって身体の全てが熱くなると、お互い快楽を与え、得ることしか考えられなくなる。一瞬、唇と唇が離れて温い吐息が顎先に当たる。溶けそうな瞳で俺を見下ろしているけれど、きっとお互い様だろう。
 そのまま翼が、いれているときみたいにどんどん動きを早めていく。ローションを付けていないからいつもよりなめらかに、というわけにはいかないけれど、ぎこちなさの増した動きが慣れない刺激になって、それすら快感へ変換してしまう。
「ぁ、あっ、つばさっ、だめ、ぇ」
「はぁ、ん、てるさん」
「い、いっちゃう…すぐ、いくから、っだめ」
「オレも、もうすぐ出そう…」
 振り絞るような、切ない声だった。ぴちゃ、と濡れた音がめちゃくちゃに口づけているものなのか、性器同士をこすり合わせているから出ているものなのか、こんなに熱に浮かれた意識ではもう判断がつかない。達するとき近くになって表れる、自分のコントロールがきかないことへのほんの少しの恐怖心で目を強くつむる。翼の喘ぐ呼吸を間近に聞きながら、身体をそらした。
「ああぁ、っあ、ぁ!」
「くっ…ぅ」
 腹が濡れて、後を追うように翼の精液が振りかかった。胸から腹にかけていろいろな体液で濡れているのを、まだ焦点を取り戻しきっていない視界で捉える。
 長い余韻に浸りながら、呼吸をなんとか落ち着かせながら翼の頬に触れ、軽く唇を合わせる。
「…ありがとな」
「へ?」
「わがままに付き合わせたな、と思って」
「え、…あぁ。いいんです。オレ、輝さんのわがままに付き合うの、好きですから」
「生意気言うなぁ」
 そのまま、普通よりかは少しだけ深いキスを交わし、二人分の身体をベッドに沈める。このままうやむやに続きへ持っていけないか一瞬企みが湧いたけれど、視界の端に翼の脱いだスカートが入り、そろそろ切り替えなければと、自戒も込めて翼のブラウスのボタンを閉めるべく指をかけた。

「さて、柏木さんの本気の女装ということで、予想以上のクオリティで出てきました!」
 長めのスカートは変わらず、デニムのジャケットの下には襟ぐりの広いシャツを着て、太めのベルトを合わせている。カジュアルな雰囲気を押し出した翼の変装は、ぎりぎり彼の大きな体格にも沿っている。おまけにプロのヘアメイク(ウィッグ)にメイク付きだ。
 ゲストから可愛いという素直な賛美の声が上がる。翼は照れたようにウィッグの毛先をもてあそぶけれど、演技か素か見分けがつかないところがすごい。
「すごいですねぇ、相当研究されましたね?」
「あはは…いろんな人に手伝ってもらいました」
 結局、服を洗濯したあと、提供元へどうするか聞いたものの、予想は当たり『柏木さんって妹いませんでしたっけ?』と軽く突っぱね返されてしまった。妹がいるまでは把握していても、うんと幼いことまでは知らないらしい。持っているままでも困るだろうから、さすがの翼も粘っているけれど、相手は強気な性格だし、そのあとどうしているかまではまだ聞いていない。扱いに困りかねてゴミへ出したとして、それこそいろいろと騒がれないといいのだけれど。
 くるりとその場で一度回って見せるとスカートが翻り、司会と観客から歓声が沸く。隣の桜庭をちらりと見ると、どういう気持ちで見ていいのか分からない、とはっきり顔に書いてあって笑いそうになった。
「本当に、思った以上に素敵ですね」
 ゲストタレントの一人が感心したように言う。確かに試行錯誤していたときに比べたら遥かに良くなったけれど、やっぱり翼は、どうしようもなく好きな男なのだ。

《了》