「……マギ」
「ひどい有様だな、ここは。毒ガスの影響か?」
自力で立つのもままならないほど打ちひしがれたカミルを支えながらマギは周囲を見渡し、これ以上ないほど深く嘆息した。
魔法遣いの五感は山に入る前から異変を理解した。一歩登っていくごとに嗅いだことのない刺激臭に鼻が曲がりそうになり、目がちくちくと痛んだ。
しかしマギは治りたての足でカミルのあとを追った。少し前の自分なら、あらゆる人間を呪いながらリヴィたちと逃げていただろう。
「マギ、どうして。逃げてください」
「そうだな、一刻も早くコロニーに戻らなければ。……でもその前にカミルを探しに来た」
「そんな」
「リヴィに手伝ってもらって足を完治させたんだ。山でお前を見失ったらどうしようかと思ったぞ」
マギはカミルへ右足を動かしてみせる。リヴィとともに魔法の力を合わせて回復させたほか、念のためクラウディアが医療用テープで固定してくれたため、痛みは消えて動かすのに何の問題もなかった。
ただ、もともとはずっとカミルの庭から瑞々しい自然の力を分け与えてもらっていたからである。あの庭にいるだけで、カミルがどれだけ懇切丁寧に草花へ愛情を注いできたか、まさに身を以て理解できた。
「この一帯にい続けるのは人間にとっても良くないだろう。山を下りるぞ」
「そんなこと、できません。離してください」
掴んで起こしてくれた手と、背を支えてくれる腕の温かさが自分にふさわしくないとしか思えず、カミルはマギを押しのけようとした。魔法遣いから何度も奪ってきた人間が、今さら何の言い訳ができようか。
しかしマギはカミルを離そうとはしなかった。彼と視線を合わせて説得にかかる。
「お前は診療所に戻らなければならない。人間を助けるんだ」
「できない」
「……なぜだ」
「もうどうしていいのか分からないんだっ!」
冷たい空気が肺に一気に入り込んで喉が引き攣れた。叫び声と同時に、カミルの両目から渇いていたはずの涙があふれる。
自然を誰よりも愛して信仰する魔法遣いの彼と触れ合って、今までこらえていた痛みが顕在化して激しく脈打った。
「誰かを救いたかった、誰も傷つけたくなかった、それなのに知らずこの手は罪を犯していく……!」
堰が切られて露わになるカミルの慟哭を、マギはただ黙って受け止める。彼を繋ぎとめるように、手や腕の力は決して緩めない。
ぼたぼたとこぼれていく涙の粒が、顎をとめどなく伝って灰色の地面に染み込んでいく。自虐的な言葉でカミルは己を罰し続けた。
ただ、マギを振り払いたくて身をよじるが、彼はちっとも離してくれやしない。
「愛しているはずの人も自然もこんなに傷つけてしまった。もう、僕にできることなんか……」
血まみれの心からあふれた悲しい言葉が再び形になる前に、マギが大きな声を出して口を挟んだ
